朝田寺

曽我蕭白のはなし ~ 朝田寺住職の手記 ~

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この記事は、過去に先代住職、榎本義穰が記したコラムを再編集したものです。

=以下本文=

年に一度、朝田寺書院で公開される曽我蕭白の作品。「奇想の画家」と呼ばれた絵師が当寺に遺した作品の中からいくつかを私の視点で紹介いたします。

獅子図の阿形と吽形


昭和45年、本堂の地蔵菩薩の左の板壁から剥いで軸装にしたのが、現在国の重文指定を受けている阿形です。瀧を背景に岩を登る獅子、逆立つ立て髪、岩を噛む鋭い爪、力ずよい身体の線、吠える口。それでいて憎めない愛らしくさえ見えるのは、点で表された眼の表情でしょうか。

対する吽形は、流れ落ちる瀧を背景に岩を下る獅子を描いた作品です。画面右から画面左に流れ落ちる瀧の線、力強い獅子の輪郭、鋭い爪、波立つ谷川、それでいてひょうきんな獅子の顔が印象的です。

岩を登り、振り返る阿形の獅子。岩を下り、前を見つめる獅子。この配置の方が獅子の視線をより、意識して感じます。

蕭白獏図・鳳凰図

朝田寺書院(元禄11年建立)の何面廊下にあった杉戸で、西に獏、東に鳳凰が描かれています。東にあった獏図は、閉めた際表にある側が、西陽を受けて、色があせ、剥離しているのが残念です。

〜 獏図 〜
お尻を正面に向けて描く体は獅子、毛はイソギンチャクを貼り付けたよう。顔は牙をもった象、鼻を高く上げて、左の杉戸を見ています。渦巻く谷川、怪しげな雲、中央と下部が欠けて白い月。悪夢でしょうか。獏は火炎をあげて、その悪夢を食べています。それでいて、楊の枝はやさしい葉をつけ、しなやかで美しい。裏面は杉の木の真後ろから、真っ赤な大きな太陽が昇る図です。獏が悪い夢を食べ、良い夢を見させてくれるという話を表裏で描いた作品です。

〜 鳳凰図 〜
桐の木にとまる鳳凰を描いた作品です。顔の表現、逆立つ首の毛、鋭い足の爪は、彼独特の怪異なものですが、桐の木や葉、尾の表現は美しい。裏には萩と兎が軽快なタッチで描かれています。

雁図・布袋図

これは軸装にする前の2枚屏風の写真です。現在はそれぞれが軸装になっています。 朝田寺蔵の獅子図や獏図・鳳凰図のように、推敲を重ねて描いたのでなく、いい気分でヒョイと筆をとって、2・3分で描いたのでしょうか。 蕭白は言います。「絵図を求めんとならば円山主水よかるべし。画を望まば我に乞うべし」 「当時主流であった狩野派の画風を絵図と言い、狩野派の中では円山応挙が一番だが、絵の心を学びたいのなら私に学べ」と。「構図や形にとらわれず、俺が描けば2・3分で生きた雁が描けるんだよ。人の悩みを入れて救ってくれる布袋様、どうだこのくらいでっかい袋で」と。画の心を楽しんで描く蕭白が、ここにあるように思います。

蕭白筆 雄鶏図

首をひねって、2羽のひよこを見つめる雄のにわとり。太い筆と墨の濃淡でリズミカルに描く羽根。雁図と布袋図と同じように、そこにあった筆をとって、1・2分でさっと描きあげたのでしょう。首をひねることで、ひよこを見る距離がより近く感じられます。実は、「ひよこの黒い襟巻は、祖父の落書きだ」と伝わっています。ひょっとしたら、右のひよこの口ばしも?

蕭白筆 布袋図

縦31.5 センチ、横49.6 センチの小品です。蕭白は酒を好んだそうです。酒を飲んで少し良い気分になった時、そこにあった筆をとって描いたのでしょうか。讃にあるように、「布袋さんが、袋につまずいてスッテンコロリンと転んでしまった。その時にそばにあった琴がなった」と。あまりに袋が大き過ぎて、足を上にほおりあげたまま起き上がれないユーモアスな布袋を描いています。ころんだ布袋を頭から描いた顔の表情が実にかわいく、思わず笑ってしまいます。小品ですがファンが多い作品です。

蕭白・唐人物画

唐人物画(縦160㎝、横353㎝、半双)です。
右から書を読む人、書を書く人、月琴を弾く人を描く。棋(ご)うつ人、画を描く人があれば「琴棋書画図屏風」六曲一双の作品の半双と思われます。右下に落款があること、左の団扇を持った人物の視線が左に向いていることからも、そう考えられます。無駄のない、引き下ろす衣服のきれいな線、かと思うと、ギザギザな線で描かれる子供の衣服。毛一本一本を描く、頭の毛やあごひげ、かと思うと、左の人物のワカメのような頭。うろの中に描かれた黒い物体は何でしょう。それぞれの人物の表情や視線、いつまで見ていても飽きない作品です。

いかがでしょうか。当寺では、毎年4月29日から5月5日の期間、朝田寺書院で11点すべてを公開しています。
是非、足をお運びください。

天台宗朝田寺 住職・名誉住職 高橋義海・榎本義譲

光福山延命院朝田寺 住職 /高橋義海
光福山延命院朝田寺 名誉住職 /榎本義譲

「朝田寺」は、三重県松阪市朝田町にあり、四方を水田に囲まれた歴史と文化と花の田舎寺です。地元では、朝田の地蔵さんと呼ばれて親しまれております。また、江戸時代中期の絵師「曽我蕭白」の作品等の文化財も所蔵、公開しております。

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